事件:密室アトリエと偽りの室温
〜 著名画家の死と歪められた時間 〜
日時: 20XX年11月10日 深夜23:00発見
場所: 長野県・高原の山荘「桐島アトリエ」
—
事件の概要
著名な油彩画家である桐島一馬(55)が、山荘敷地内にあるアトリエの床で胸をナイフで刺されて死亡しているのが発見された。発見者は画廊オーナーの神条で、時刻は23:00頃。
アトリエの出入口扉は内側からサムターン(つまみ)で施錠されており、窓もすべて内側からクレセント錠がかかった完全な密室状態であった。アトリエの鍵の予備はなく、本物の鍵は桐島本人の胸ポケットに入っていた。
警察の初期検視によると、死体現象(体温降下・死後硬直)の進み具合から、死亡推定時刻は「21:00〜22:00」と判定された。当日は強い冷え込みで外気は5℃まで下がっていたが、発見時のアトリエ内は26℃と生暖かく、暖房が切れた直後のような熱気が残っていた。
—
登場人物
橘 巧(30)— 弟子・助手
桐島に弟子入りして5年目の若手画家。最近、自身の盗作疑惑を桐島に突き止められ、破門および業界からの追放を言い渡されていた。
- アリバイ: 19:00〜20:00は「頭を冷やすため1人で散歩していた」と主張(証明不可)。20:30〜22:30は麓の街にあるバーにおり、店主や客の目撃証言と会計レシートがある。
- 動機: 破門を撤回させるか、口封じをする必要があった。
神条 蓮(48)— 画廊オーナー
桐島の作品を専門に扱う画商。事業の失敗で多額の負債を抱えており、桐島の遺作となる未発表の大作を手に入れて売却することを企んでいた。
- アリバイ: 20:00〜22:00まで山荘の自室でパソコンに向かい、メールの送受信を行っていたと主張(20:45と21:30に送信履歴あり)。
- 動機: 桐島亡き後の莫大な絵画資産と保険金。
涼風 葵(26)— 専属モデル
桐島の代表作のモデルを務める女性。過去のプライベートなスキャンダルを桐島に握られており、度重なる無償でのモデル撮影を強要されていた。
- アリバイ: 21:00〜22:30まで山荘のメインリビングで1人でお茶を飲みながら読書をしていたと主張。他の全員の出入りは見かけなかった。
- 動機: 脅迫からの解放と復讐。
桐島 薫(50)— 被害者の弟
桐島の財産管理を手伝う実弟。実家の遺産相続を巡って兄の桐島と長年激しく対立しており、前日も激しい口論を目撃されている。
- アリバイ: 20:30〜21:30まで車で山荘を出てドライブしていたと主張(21:00頃に途中のコンビニの防犯カメラに映っている)。
- 動機: 遺産分配への不満と長年の憎悪。
—
物的証拠
- アトリエの扉とドアスコープ: 厚い木製ドアで、ドア下部には約5ミリの隙間がある。ドアノブのサムターンは斜めに傾けるとロックされる古いタイプ。ドア枠のヒンジ付近から、極細の透明ナイロン糸の繊維くずが検出された。
- エアコンのタイマー設定: 壁掛けエアコンのリモコン履歴を確認したところ、「19:30に32℃(暖房強)で運転開始」「22:30に自動オフ」というタイマー予約が実行されていた。
- キャンバスの油絵具: イーゼルに設置されていた描きかけの油彩画。通常、完成までに数日〜数週間かけて乾くはずの油絵具の表面が、不自然なほどひび割れて急激に乾燥した痕跡があった。
- バーのレシート: 橘が所持していた麓の街の「バー・ムーンライト」のレシート。日時「11月10日 20:35入店/22:25退店」の印字があり、店主も橘がその時間帯に店内にずっといたことを証言している。
- 橘の部屋のゴミ箱: 橘の自室のゴミ箱から、摩擦で一部が熱溶融した細い釣り糸の切れ端と、小型の粘着テープの芯が発見された。
—
証言
橘 巧:
「19:00から20:00頃までは1人で散歩をしていました。その後、20:30から22:25までは街のバーにずっといました。先生が殺されたのが21:00〜22:00の間なら、私には絶対不可能です!犯人はその時間に山荘にいた誰かでしょう。」
神条 蓮:
「20:00から22:00までは自室で画廊の事務作業をし、メールを書いていました。23:00頃に打ち合わせのためアトリエを訪ねたら鍵がかかっており、返事がないので窓から覗くと先生が倒れていたのです。」
涼風 葵:
「21:00から22:30までリビングにいましたが、アトリエの方から何か音や気象の変化があったかはわかりません。ただ、20:00頃に橘さんが焦った様子でアトリエから出てくるのを見かけた気がします。」
桐島 薫:
「兄とは喧嘩ばかりでしたが殺してはいません。20:30から21:30まではドライブで外に出ていました。コンビニの防犯カメラが私のアリバイを証明してくれています。」

コメント